靴を履いたまま暮らすのは、靴を脱ぐより、むしろ清潔
そんな風に書いていたのは、セツ・モードセミナーという美術学校を創設した長沢節さん
なぜなら裸足で歩いたときの皮脂汚れは、雑菌が繁殖しやすいからです
土埃なら、ほうきで掃き出したり、掃除機で吸い取るだけで済みます
なるほどと思い、私は事務所としても使える物件を借りて、靴のまま生活していました
そんなホテルのようなワンルームでの暮らしは、非常に快適でした
靴を履いたまま暮らすほうが清潔

日本人に水虫が多いのは、裸足で歩き回るから
長沢節さんのエッセイには、そんなことも書かれていました
たしかに高温多湿の日本では、まめに拭き掃除をしないと、菌が繁殖するはずです
【不衛生な皮脂汚れ】

真夏は裸足のほうが涼しく感じますが、実際はスリッパを履いています
そのスリッパも、定期的に洗わないと不衛生なはずです
畳の上を裸足で歩くのは気持ちが良いものですが、畳は特に菌が繁殖しやすい素材
昔の人は、毎日「酢」を入れた水で拭き掃除をしていたといいます
畳も定期的に外し、陰干ししていました
そんな手間ひまをかけられるのは、上流階級の人たちだけだったはずです
●畳は上流階級の贅沢品

畳は本来、とても手間のかかる、贅沢な床材です
なぜなら定期的に外して陰干ししたり、畳表を張り直す必要があります
それは使用人が必要なほどの重労働ですし、経済力も必要です
そのため畳を使うには、使用人を雇えるほどの経済力が要ります
けれど使用人がいない、経済力もない、庶民の畳は敷きっぱなし
その上にカーペットを敷いたりしたら、ダニが繁殖し、カビが生えるのは当然です
●和室ではスリッパを脱ぐ謎

室内でスリッパを履いていても、畳の部屋に入る時は、たいていの人が脱ぎます
畳の部屋でスリッパを履いていることに抵抗を感じる、というのも不思議な感覚です
畳を特別視するのは、階級社会の名残ではないかと考えています
例えば、お屋敷の廊下は、畳敷きと板敷きに分かれていたといいます
畳敷きの廊下を歩けるのは家の主人だけで、使用人が歩くのは板敷きの部分です
そんな身分制度の名残が、畳に対する特別感になっているように感じます
●不衛生なスリッパ

トイレでスリッパを履き替えるのも、不思議な習慣です
御不浄と呼ばれるほど、トイレは汚い場所だからでしょうか?
ですが本来は、そんな汚い場所にしておいては、いけないはずです
【掃除しやすい土埃】

皮脂汚れと比べると、土埃のほうが簡単に掃除できます
ホウキで履いたり、掃除機で吸い取ったりすれば済むからです
そして室内のホコリは、靴を脱いでいても溜まります
床の拭き掃除より、足の裏や靴下を洗うほうが、ずっと簡単です
いたるところが舗装されている現代、靴が泥だらけになることはありません
雨の日などは、玄関マットで靴底を拭けば済むことです
家の中でも靴を履いているアメリカ人でも、ソファの上や寝室では靴を脱いでいることがあります
そのまま玄関を出て、ポーチや庭を歩くことも珍しくありません
そして汚れた靴下や足は、簡単に洗えます
靴を履いたまま暮らす安全性

家の中で靴を履いていると、災害時など、すぐ避難できます
そのため地震や水害などの多い日本では、むしろ靴を履いたままの生活のほうが安全です

例えば大規模な地震が起きたら、割れたガラスなどが床に散乱します
玄関まで行く間に足を怪我する危険性があり、避難が遅れることにもなります
地震速報の時には、室内で靴を履いているよう勧告されます
災害時でなくとも、床の段差に足をぶつけたり、小さなものを踏むと、痛い思いをします
室内でスリッパを履いているのは、足を保護するためでもあります
靴を履いたまま暮らす快適さ

スリッパを履いていると、寒い時期でも足が冷たくありません
それなら靴のままでも良いはずです
床の冷たさを感じないので、ラグマットなども必要なくなります
何か忘れ物に気づいた時も、サッと取りに行くことができます
靴と洋服は、一緒に収納したほうが、コーディネートもしやすくなります
【きれいな玄関】

靴のまま生活すると、玄関に置くものが減ります
下駄箱も不要になるので、玄関がスッキリ片付きます
スリッパに履き替えるくらいなら、そのまま靴で生活したほうが、ずっと快適です
狭い玄関にスリッパと靴を全て置くから、スペースが足りなくなります
いちいち靴箱に仕舞うのが面倒なので、玄関が散らかります
靴を履いたり脱いだりする時は、椅子に腰かけているほうが楽です
そのため玄関に、ベンチを置いたりすると、さらに狭くなります
靴のまま室内に入れば、椅子やソファーで靴を脱ぐことができます
【段差のない玄関】

玄関に段差を設けて、靴を脱ぎ、スリッパに履き替える習慣に、疑問を感じています
なぜならバリアフリーにするため、後から工事したりしているからです
最初から段差のない玄関なら、車椅子でも出入りできます
ペットも人も、スッと室内に入れます
すると、玄関に犬の脚洗い場などを用意する必要もありません
【靴を履いたままの洋風住宅】
椅子やベッドといった洋風の家具で暮らすなら、靴を履いたままのほうが快適です
何でも洋風がいいわけではありません
日本の伝統や文化には、様々な知恵があります
それでも畳を敷いた和室は、もう現代の生活には馴染まなくなっています
和室は、床に座り、布団を敷いて寝る場所です
そのため現在では、畳を敷いた和室は敬遠されます
椅子やベッドが定着したのは、体への負担が少ないからです
床に座って、布団に寝る、という低い暮らしは、高齢になるほど足腰に負担がかかります
若い人にとっても、椅子に腰かけ、ベッドに横たわるほうが楽です
畳を敷いた部屋に椅子やベッドを置くと、畳が凹み、傷んでしまいます
古民家などを改装する場合、必ずと言っていいほど畳を撤去してフローリングにしています
和室は全て、洋室に変えてしまうケースも少なくありません
一部屋くらいは、と和室を作っても、結局あまり使わない客用になったりします
ですが現代の暮らしでは、頻繁に客が来たり、家に泊まったりすることは減りました
温泉旅館で、たまに和室を楽しむくらいでいい、と思っています
ひとり暮らしなら、ホテルのようなワンルームも快適です

ホテルのようなワンルーム部屋は、一人暮らしに最適。勉強や趣味に没頭できるデスクと、よく眠れるベッドさえあれば十分だからです。一人なら、家族で共有するリビングのような部屋は要りません。小さな食卓か、広めのデスクがあれば食事もできます。クローゼットに入る衣類だけの、ミニマルな暮しが快適です。
あるいは、いっそのことホテル暮しという選択肢もあります
ホテルのサブスクなら、賃貸と同じくらいの金額で宿泊が可能
光熱費やネット料金なども含まれていることを考えると、賃貸より安いかもしれません

ホテル暮しのメリットとは、引っ越しの手間や費用が不要なこと。旅をする時と同じように、スーツケースひとつで生活が始められます。とはいえ長期滞在するとなると、やはり宿泊費は高額になります。例えば1泊5000円でも、一か月にすると15万円。1泊5000円というと、安いビジネスホテルにしか泊まれません。